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７人制ラグビー、３試合目。
トライまであと数十メートルまでに迫ったとき。
“ピィー！！！”
反則の笛がなった。

“あー、くそ！　自分で行けばよかった！”

直前までボールを持っていたため、
パスをせずに突進すれば何とかなったかもしれない！と後悔した・・・。

“あかん、時間ないし、もっと攻めな！”

そう思って顔を上げた。
僕の視線の先、３メートルほどいったところに谷口が疲れた顔をして立ち尽くしていた。

“谷口、えらいしんどそうな顔してるな。”

そして、谷口と目があった。

“よし、もう少し頑張ろうか！”

イケダは谷口と言葉交わさずともそんな会話をしたように感じた。

 

そして、そのほんの１秒後。

谷口は地面に蹲り死にそうに悶え苦しみ、

イケダは涙を浮かべながら腹を抱えて笑っていた。

 

“よし、もう少し頑張ろうか！”

僕は谷口と言葉交わさずともそんな会話をしたように感じた。

ともにラグビーをして１０年。

苦楽を友にしてきた仲間である。言葉など不要。

目と目で語り合っていた。

 

“よし、もう少し頑張ろうか！”

俺の目には、イケダがそんな表情をしていると感じ取った。

ともにラグビーをして１０年。

ここで諦めるイケダではない、こいつの性格は熟知している。

言葉など不要。目と目で語り合っていた。

俺はイケダの目を見つつ

“よし、もう少し粘るか！”

と応えていた。

 

“よし、もう少し頑張るか！”

僕の目には谷口がそう応えたように感じた。

疲れているが気力は残っているようだ。

谷口がムダに諦め悪いのは熟知している。

しかし・・・

こーやって３メートル離れたところから谷口の全身を眺めてみると
なんともまさにプロレスラーではないか。

既に体力の限界に達しているプロレスラーのような佇まいである。

そして、あの苦しそうな表情。

冷静に見ると笑ってしまうではないか。

 

イケダが俺の顔をみて、不適な笑みを浮かべた。

また、よからぬことを考えているのか？

イケダの性格から考えると・・・

次のプレーで何かを狙っているのか？そうなのか？

トライまで残り数十メートル。確かにもう少しだ。

しかし・・・

イケダよ、残念ながら俺の体力は残っていない。。

 

一際死にそうな顔をしてこちらを見つめる谷口。

お前の体力がないのは重々把握しているが、試合中に見ると滑稽で仕方ない。

こっちを見るなって！笑ってしまう！！

 

余程の自信があるのかイケダはさらに不適な笑みを浮かべている。

イケダ、俺には体力が残っていない。

しかし！しかし！！今日の俺の身体は思いの外キレが良い！

パスを出すなら出してくれ！任しとけ！！

 

さらに苦悶の表情をしてこちらをみつめる谷口。

わかったて！しんどいのわかったから！

もうパスも出さんから！！

こっちを見るなって！笑ってしま、、、あっ。

 

　　　ドグフォ！！

 

イケダの顔を見ていた俺の胸に激痛が走った。

鈍い音を立て、全身が激痛で悲鳴をあげる音が聞こえた。

い、い、息がぁぁ！！

頭の中が真っ暗になり、俺は地面にへたり込んだ。

 

半笑いで谷口を見ていた僕は一部始終を見ていた。

疲れた様子で立ち尽くしている、まるで赤子のような無防備な谷口に対し、

敵が半端ない速度で、谷口の、そう、あの谷口のプロレスラーのような胸筋に対して

右肩を拳のように固め、えげつない角度で突き刺さったのである。

その瞬間、僕の耳には、人生２５年間、今まで聴いたこともない衝撃音が鳴り響いた。

 

　　　ドグフォ！！

谷口の頭から、口から、そして鼻から、谷口液が飛び散るが如く、

悲痛の極みの形相でその場で谷口は倒れこんだのである。

 

ぐばぇ！ぐばぇ！ぐばぇ！ぐばぇ！苦しい！！

ぐばぇ！ぐばぇ！ぐばぇ！ぐばぇ！ぐばぇ！

ぐばぇ！ぐばぇ！ぐばぇ！ぐばぇ！

全身の穴という穴から痛みが噴出す。

あまりの激痛で何も考えられない。何も見えない。

ぐばぇ！苦しい！！死ぬ！！ぐばぇ！死ぬ！！

何も考えれないこの状況で、ある声だけが耳に入ってきた・・・。

 

うぃはははははは！！！！

 

谷口の胸襟にあの角度で突き刺さると、

あのような奇怪な音を奏で、

さらに、あの奇妙な息の仕方“ぐばぇ！”が口から飛び出すのである。

　ドグフォ！！　と　ぐばぇ！

ここ数年これほどおもろいメロディーを聞いたことのなかった僕は

倒れている谷口に背を向けて、天を見つつ声高らかに笑った。。

 

　うぃはははははは！！！！

　お前、おもろすぎやろ！！

 

僕は、本当に久しぶりに腹の底から笑えたような気がした。

谷口とイケダの目があって１秒間のキセキ、これにて完結。
 

今日の格言 ： 「守るもの（胸筋）がある人間（谷口）は強い。」
 

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